判例時報 No.2262
平成27年9月1日 号 定価:1466円
(本体価格:1333円+10%税)
<最新判例批評>
渡辺 充 石田 剛 松澤 伸 末道康之 斎藤 司
特集 冤罪事件【下】
志布志国賠訴訟 Part① 起訴・無罪原告事件
◆特集 冤罪事件【下】◆
志布志国賠訴訟(鹿児島地判平27・5・15)
判決全文と解説(Part① 起訴・無罪原告事件)
一 無罪判決が確定した刑事事件において、被告人らに対する警察の捜査の一部に、害悪の告知など、社会通念上相当と認められる方法ないし態様及び限度を超えた違法があったほか、捜査幹部の誤った筋読みに沿った被疑者の虚偽の自白に基づき、被疑者らの身柄拘束を行ったことにつき合理的な理由を欠いた違法があったとされた事例
二 無罪判決が確定した刑事事件において、検察官が順次した公訴提起の一部に、捜査の進展に従って判明した事実関係等に照らして合理的な理由を欠いた違法があり、これと相互に密接に関連する先行事件についての公訴の取消し等を検討することなく漫然と公訴追行を維持したことは、公権力の行使に当たる公務員が職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさず、適法な公訴提起がなされた後の公訴追行が違法と評価されるべき特段の事情に当たり、その後の被告人らに対する身柄拘束も違法とされた事例
三 警察官及び検察官が、被疑者らから組織的に弁護人との接見内容を聴取し、捜査官が相当程度誘導した上で、自白を前提とした情状立証以外の弁護方針に対しては拒絶する意向を述べた内容の供述調書を繰り返し作成したことにつき、「接見内容を聴取する必要性があった」及び「秘密交通権の放棄があった」との被告らの主張を排斥して、被疑者らが適切な弁護を受ける権利を侵害した違法があったとされた事例
四 無罪判決が確定した刑事事件における警察官の捜査並びに検察官の捜査、公訴提起及び公訴追行等の消滅時効の起算点に関し、①合理的な嫌疑を欠く身柄拘束、公訴提起及び公訴追行等については、無罪判決の確定の時点で損害及び加害者を知ったとみるべきであり、②脅迫・偽計等の違法な手段を用いた任意同行や取調べについては、当該違法な捜査がされた時点で、③接見内容を聴取した取調べについては、弁護人との間で新たに無罪主張の弁護方針を固めた時点で、それぞれ損害及び加害者を知ったものとみるべきであるとして、違法行為の一部について、時効期間の経過を認めたが、公訴提起及び公訴追行された経緯等の事情に照らして、被告らの消滅時効の主張が権利濫用に当たるとされた事例
判例評論
四三 被相続人が締結した変額個人年金保険契約について、死亡給付金請求権の受取人とされた相続人が相続開始後で、死亡給付金請求権の履行期までに年金の種類及び支払期限を補充する指定をした場合における相続税法二四条一項(平成二二年法律第六号による改正前のもの)の適用の可否
(東京高判平26・9・24)……渡辺 充
四四 河川災害復旧工事用地として買収された土地について被相続人の占有が他主占有であっても、相続人の自主占有による時効取得が認められた事例
(大阪高判平25・11・12)……石田 剛
四五 一 同一被害者に対し一定の期間内に反復累行された一連の暴行によって種々の傷害を負わせた事実について、包括一罪とされた事例
二 包括一罪を構成する一連の暴行による傷害について、訴因の特定に欠けるところはないとされた事例
(最一決平26・3・17)……松澤 伸
四六 約款で暴力団員からの貯金の新規預入申込みを拒絶する旨定めている銀行の担当者に暴力団員であるのに暴力団員でないことを表明、確約して口座開設等を申し込み通帳等の交付を受けた行為が、詐欺罪に当たるとされた事例
(最二決平26・4・7)……末道康之
四七 覚せい罪の密輸入事件について、共犯者の供述の信用性を否定して無罪とした第一審判決には事実誤認があるとした原判決に、刑訴法三八二条の解釈適用の誤りはないとされた事例
(最一決平26・3・10)……斎藤 司