判例時報 No.2157
平成24年10月1日 号 定価:1466円
(本体価格:1333円+10%税)
<最新判例批評>
後藤巻則 佐藤岩昭 片桐善衛 香川 崇
齋藤善人 西野喜一 愛知靖之 前田 健
■判決録
<行政> 1件
<民事> 6件
<知的財産権> 2件
<商事> 2件
<労働> 1件
<刑事> 1件
◆判決録細目◆
行 政
○本邦に不法残留したイラン・イスラム共和国の国籍を有する母及びその未成年の子のうち、母の兄とその日本人妻と養子縁組し養父母と同居している子についてされた在留特別許可をしないという判断は裁量権の範囲を逸脱したものとして、子に対する裁決及び退去強制令書発付処分が取り消された事例
(東京高判平23・5・11)
民 事
○ゴルフ場用地の一部の賃貸借契約の終了に基づく明渡請求につき、権利の濫用にあたらないとされた事例
(大阪高判平24・5・31)
▽信託銀行が、信託契約に基づき貸金業者の貸金債権を譲り受け、その後も貸金業者に貸金債権を回収させていた場合に、その貸金債権について生じた過払金の返還義務を負わないものと判断された事例
(東京地判平24・4・19)
▽管理組合がマンションの大規模修繕工事を決定し、実施した際、規約違反をしていた特定の区分所有者の専有部分の前付近の共用部分につき工事が実施されなかった場合について、理事らの債務不履行、不法行為が否定された事例
(東京地判平24・3・28)
▽主権免除を理由とする訴え却下判決が確定した後に、主権免除の範囲に関する判例が変更されたことを受けて、同一訴訟物について後訴を提起した場合の後訴の適法性
(東京地判平23・10・28)
▽脳梗塞の前兆とされる一過性脳虚血発作(TIA)を医師が見逃し治療を怠った結果、脳梗塞を発症し半身麻痺になった場合、診察した医師が専門外であったとしても一般的な医療水準に則った診断の義務があり、TIAについての知識不足でTIAではないと誤診したものであるから医師には診療行為につき過失があったとして、不法行為に基づく損害賠償責任が認められた事例
(福岡地判平24・3・27)
▽町議会の元副議長が聴覚障害年金の取得に関して、同町長及び町職員による質問及び調査によりプライバシーを侵害されたとして町に対して求めた国家賠償請求が棄却された事例
(旭川地判平24・6・12)
知的財産権
○一 審判長は、特許法一三一条一項に違反する請求書について、同法一三三条一項に基づく補正命令により指定した相当の期間内に補正がされなかった場合、いかなる時期に同条三項に基づく当該請求書の却下決定をするかについての裁量権を有しており、当該決定は、具体的事情に照らしてその裁量権の逸脱又は濫用があった場合に限り、違法と評価される
二 審判長が有する請求書の却下決定をする時期についての裁量権を逸脱又は濫用したものとはいえないとされた事例
(知的財産高判平24・6・6)
○固定潤滑剤等を指定商品とし、「SUBARIST」及び「スバリスト」の文字を上下二段に横書きして構成された商標は、自動車等を指定商品とし、自動車のブランド名でもある「スバル」の文字から構成された商標等との関係で、混同を生ずるおそれがある商標(商標法四条一項一五号)に該当する
(知的財産高判平24・6・6)
商 事
◎一 振替株式について会社法一一六条一項に基づく株式買取請求を受けた株式会社が、同法一一七条二項に基づく価格の決定の申立てに係る事件の審理において、同請求をした者が株主であることを争った場合における、社債等振替法一五四条三項所定の通知の要否
二 会社法一一六条一項に基づく株式買取請求をした株主が当該株式を失った場合における、当該株主による同法一一七条二項に基づく価格の決定の申立ての適否
(最二決平24・3・28)
▽建築請負工事未完成のまま倒産した請負会社より未完成部分の工事代金を支払わされた注文者が、請負会社の代表取締役に対し求めた会社法四二九条一項等に基づく損害賠償請求が認容された事例
(静岡地判平24・5・24)
労 働
◎労働組合からの申立てを受けて労働委員会が発した救済命令の取消しを求める訴えの利益が、使用者に雇用されている当該労働組合の組合員がいなくなるなどの発令後の事情変更によっても失われないとされた事例
(最二判平24・4・27)
刑 事
◎一 トラックのハブが走行中に輪切り破損したために前輪タイヤ等が脱落し、歩行者らを死傷させた事故について、同トラックの製造会社で品質保証業務を担当していた者において、同種ハブを装備した車両につきリコール等の改善措置の実施のために必要な措置を採るべき業務上の注意義務があったとされた事例
二 トラックのハブが走行中に輪切り破損したために前輪タイヤ等が脱落し、歩行者らを死傷させた事故と、同種ハブを装備した車両につきリコール等の改善措置の実施のために必要な措置を採るべき業務上の注意義務に違反した行為との間に因果関係があるとされた事例
(最三決平24・2・8)
判例評論
五一 一 消費者契約法一〇条と憲法二九条一項
二 賃貸借契約書に一義的かつ具体的に記載された更新料の支払を約する条項の消費者契約法一〇条にいう「民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」該当性
(最二判平23・7・15)……後藤巻則
五二 無権利者を委託者とする他人物の販売委託契約が締結された場合における、当該物の所有者の行う追認の効果
(最三判平23・10・18)……佐藤岩昭
五三 マンションの区分所有者が、業務執行に当たっている管理組合の役員らをひぼう中傷する内容の文書を配布するなどする行為が、区分所有法六条一項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるとみる余地があるとされた事例
(最三判平24・1・17)……片桐善衛
五四 損害保険会社が交通事故の被害者の損害賠償請求権を保険代位した場合、被害者とともに消滅時効が進行するとし、加害者の消滅時効の援用の効力が認められた事例
(東京地判平23・9・20)……香川 崇
五五 会社から取立委任を受けた約束手形につき商事留置権を有する銀行が、同会社の再生手続開始後の取立てに係る取立金を銀行取引約定に基づき同会社の債務の弁済に充当することの可否
(最一判平23・12・15)……齋藤善人
五六 「独立行政法人国立病院機構」に属するある病院内での医療事故につき、機構内部で作成された調査報告書が民事訴訟法二二〇条四号ロに該当するとして、文書提出命令の申立が排斥された事例
(東京高決平23・5・17)……西野喜一
五七 独立特許要件不充足を理由とする補正却下に際しての拒絶理由通知の要否――逆転洗濯伝動機事件
(知的財産高判平23・10・4)……愛知靖之
五八 一 特許法一〇一条四号所定のその方法の使用に「のみ」用いる物とは、当該物に経済的、商業的又は実用的な他の用途がないことが必要である
二 特許発明に係る方法の使用に用いる物に、当該特許発明を実施しない使用方法自体が存する場合であっても、当該特許発明を実施しない機能のみを使用し続けながら、当該特許発明を実施する機能は全く使用しないという使用形態が、その物の経済的、商業的又は実用的な使用形態として認められない限り、なお特許法一〇一条四号所定の「その方法の使用にのみ用いる物」に当たる
(知的財産高平判23・6・23)……前田 健