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判例時報 No.2142
             平成24年5月1日 号 定価:1466円 (本体価格:1333円+10%税)

<最新判例批評>
 高木 光 今村与一 前田陽一 渡部美由紀 野村秀敏 今井猛嘉
 
■判決録
<行政> 1件
<民事> 9件
<知的財産権> 4件
<労働> 1件
<刑事> 1件


◆判決録細目◆

行 政

○一 行政機関の保有する情報の公開に関する法律四条一項に基づく行政文書開示請求に対して、開示請求の対象である行政文書を行政機関が保有していないことを理由としてされた不開示決定の取消訴訟においては、開示請求者が、行政機関が当該行政文書を保有していることについて主張立証責任を負うと解するのが相当であるところ、通常の場合は、一定水準以上の文書管理体制下に置かれたことを前提として、過去のある時点において、当該行政機関の職員が当該行政文書を職務上作成し、又は取得し、当該行政機関がそれを保有するに至ったことを主張立証した場合には、その状態がその後も継続していることが事実上推認され、特段の事情がない限り、当該行政機関は不開示決定の時点においても当該行政文書を保有していたと推認されるとされた事例
二 沖縄返還交渉において、日本が米国に対して沖縄返還協定で規定した内容を超える財政負担等を国民に知らせないままに行う合意を示す行政文書が外務省及び大蔵省の職員によって職務上作成され、外務省及び大蔵省がこれらを保有するに至ったことは認められるが、その管理状況については、通常の管理方法とは異なる方法で管理されていた可能性が高く、また、その後に通常とは異なる方法で廃棄等がされた可能性があり、過去のある時点において当該行政機関が当該行政文書を保有するに至ったことから、その状態がその後も継続していることを事実上推認するための前提となる、当該行政文書が行政機関の職員が組織的に用いるものとして一定水準以上の管理体制下に置かれたこと自体について、これを認めるには合理的疑いがあるというべきであるとして、当該行政文書の不存在を理由とする文書不開示決定処分の取消請求が棄却された事例

――沖縄返還「密約」文書開示事件控訴審判決
(東京高判平23・9・29)

民 事

◎マンションの区分所有者が、業務執行に当たっている管理組合の役員らをひぼう中傷する内容の文書を配布するなどする行為が、建物の区分所有等に関する法律六条一項所定の「区分所有者の共同の利益に反する行為」に当たるとみる余地がある場合

(最三判平24・1・17)

○金銭消費貸借契約に基づく債務の保証契約について、その和解契約が、消費貸借上の債務と取扱いを異にして利息制限法上の制限利率の適用を排除すべき実質的な理由がないとして、消費者契約法一一条二項により、利息制限法四条一項の適用があるとされた事例

(東京高判平23・12・26)

○違法な課税処分を是正するため、異議申立て、審査申出を弁護士に委任した場合、その弁護士費用は、右違法行為と相当因果関係のある損害と認められた事例

(大阪高判平23・11・4)

▽港の岸壁に着岸して積荷の陸揚げ作業中の船舶のクレーンが損傷を受けた事故について、陸上のクレーンが衝突して発生したものであり、陸上のクレーン作業員に過失があるとして、その使用者の責任が認められた事例

(東京地判平23・2・22)

▽損害賠償請求事件の認容判決の主文及び理由の更正決定につき明白な誤りがあったとはいえないとして取り消された事例

(東京地決平23・12・28)

▽ソフトウェアの販売代理店が、顧客に対し、ソフトウェアのリース契約を締結すれば無償で宣伝用ホームページを作成すると申し向けてその締結を勧誘した行為が、顧客の契約締結過程における意思決定の自由を侵害するものであって、社会的相当性を著しく欠き、不法行為を構成するとされた事例

(大阪地判平23・9・9)

▽財団の管理運営するプールで男性客(当時四四歳)が溺死した事故につき、プールの監視員の不注意が原因であるとして、監視員の雇用会社に使用者責任、財団に安全配慮義務違反があるとして求めた損害賠償請求が棄却された事例

(名古屋地判平24・1・27)

▽共有に係るモディリアーニの絵画「ユダヤの女」の分割請求につき、競売による分割が命じられた事例

(神戸地尼崎支判平23・12・27)

▽ゴルフ場経営会社が、市がゴルフ場敷地の固定資産の評価につき森林部分とコース部分を分離評価せずに一括評価し課税したことを違法として求めた国家賠償請求が棄却された事例

(津地判平24・1・26)

知的財産権

◎一 我が国について既に効力を生じている文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約に我が国が国家として承認していない国が事後に加入した場合における同国の国民の著作物である映画の著作権法六条三号所定の著作物該当性
二 著作権法六条各号所定の著作物に該当しない著作物の利用行為と不法行為の成否

(最一判平23・12・8)

○無効審判請求を不成立とした審決が、無効理由についての判断の遺脱があるとして、手続違背を理由に取り消された事例――麦芽発酵飲料事件判決

(知的財産高判平23・10・4)

○インターネット回線を通じてテレビ番組を視聴することができるようにするサービスを提供する被告の行為が、原告らの著作隣接権(送信可能化権)及び著作権(公衆送信権)を侵害すると判断して、差し戻された控訴審において、被告の過失の成否、原告らの損害の額、原告らの著作隣接権に基づく本件放送の差止請求及び著作権に基づく本件番組の公衆送信の差止請求の可否等が判断された事例――まねきTV事件差戻後第二次控訴審判決

(知的財産高判平24・1・31)

▽テレビCM原版が映画の著作物であると認めた上で、原告が映画製作者であることを否定して著作権を有しないとされた事例

(東京地判平23・12・14)

労 働

▽一 被災者の業務内容等により被災者の取引先等との接待・会食時間が、一定の範囲で業務の過重性判断の基礎となる労働時間に含まれるとされた事例
二 被災者の業務は、量的にも質的にも過重であり、被災者の脳動脈破裂によるくも膜下出血及び同疾病による死亡については業務起因性が認められるとして、被災者に対してなされた遺族補償給付等の不支給処分が取り消された事例

(大阪地判平23・10・26)

刑 事

◎一 保護処分決定で認定された日には非行事実の存在が認められないが、これと異なる日に事実の同一性のある範囲内で同一内容の非行事実が認められる場合と少年法二七条の二第二項による取消しの要否
二 保護処分取消し申立て事件において、事実の同一性のある範囲内で保護処分決定と異なる非行事実を認定するに当たり、申立人に対して十分に防御の機会を与えているとされた事例

(最一決平23・12・19)

◆最高裁判例要旨(平成二四年二月分)

判例評論

二三 公にされている処分基準の適用関係を示さずにされた建築士法一〇条一項二号及び三号に基づく一級建築士免許取消処分が、行政手続法一四条一項本文の定める理由提示の要件を欠き、違法であるとされた事例

(最三判平23・6・7)……高木 光

二四 登記簿上所有者が不明とされた不動産について時効取得による所有権保存登記を経由するための方法

(最二判平23・6・3)……今村与一

二五 施設使用許可仮処分確定にもかかわらず使用を拒否したホテルの損害賠償責任と弁明による名誉毀損――プリンスホテル日教組大会事件控訴審判決

(東京高判平22・11・25)……前田陽一

二六 併合請求における訴額と事物管轄

(①最二決平23・5・18、②最二決平23・5・30)……渡部美由紀

二七 一筆の土地の一部についての権利を保全するため当該一筆の土地全部について処分禁止の仮処分の申立てをすることは、保全の必要性を欠くとして理由はないが、仮処分登記をする前提として、債務者に代位して当該部分の分筆のための手続を履践していると仮処分の目的が達成されなくなるおそれがあるときは、申立ては理由があるというべきであるとして、原決定を取り消して事件が原審に差し戻された事例

(大阪高決平23・4・6)……野村秀敏

二八 防衛庁調達実施本部副本部長等の職にあった者が、退職後に私企業の非常勤顧問となり顧問料として金員の供与を受けたことについて、事後収賄罪が成立するとされた事例

(最三決平21・3・16)……今井猛嘉

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